悪いコだ…そう言って彼は私の両手を縛り上げた。
こうして身体を重ねるのはもう何度目かしら。
交わるということに慣れてきた私は、次第に彼を追い詰める事を覚えていったわ。
わざといやらしい音をたてて、ぴちゃぴちゃと耳を舐める。舌を尖らせて奥へと侵入を試みたり、縁をなぞってみたり。時折軽く噛み付くことも忘れないで、緩急をつけて攻める。
首筋を通り、鎖骨の窪みにも舌を這わせる。
鎖骨からさらに下がり、胸へと進む。
同じ胸という場所なのに自分とまったく違う。柔らかさなどなくて、硬い筋肉で作られている。脂肪を原料とする丸みはそこにはなく、厚い筋肉で、少し盛り上がっている程度。
こんなにも違うのに、何故か同じものがちょこんと乗っている。哺乳類には雌雄の別なく備わっているらしいけど、雄にとって何の必要があるのかしら。
そんな堅い話は他所へやって、耳と同様に丹念に弄る。
舐めまわしたり、吸い付いたり、歯を立てたり。時々様子を窺いながら徐々にあごに力を入れる。
その間も右手はせわしなく動き回っている。
わき腹を撫でて腰から太腿まで下がり、内腿を撫でて触れて欲しそうな肝心なところを掠めてまたわき腹へと戻る。
徐々に舌が胸から腹へと下がってくる。
早くもっと下がれという視線に無視を決め込み、緩慢な動きで腹を撫でる。
無視を決め込むくせに、偶然を装って柔らかい胸を彼の欲望に押し付けながら上半身を攻める。
胸に熱さと硬さを感じて、自分まで熱くなってくるのがわかる。
臍を通り腰骨に沿って左足に唇を滑らせる。内腿にリップノイズを立てる。
視線を上げ、彼と目が合う。少し微笑んで、見せつけるように彼の先端に舌を伸ばす。期待に彼の視線が緩む。
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てる。たっぷりの唾液を絡ませて顔を上下させる。
もっと奥まで、もっといっぱい。
不意に肩を叩かれてもういいと言われたけど、どうせここまできたのならと、その言葉にさえ無視することにした。
じっと彼を見つめて髪を耳にかける。唇を舐めた舌が再び降りていく。
舐めて咥えて弄って。
彼の制止も聞かず、ただ追い詰めようと。
「くっ…。」
彼から短音が漏れる。
もう少しだと頭のどこかから聞こえてくる。そう、このまま奥まで咥えたまま…。
また肩を叩かれて放せと言われる。それでも無視を決め込もうとした。
「ぁ…。」
無理矢理に取り上げられ、抗議と落胆の色を含んだ溜め息がでる。
「だめだといったのに…。」
彼はさも残念そうに呟いた。その表情は残念がっているようには見えない。
また熱いソコに伸ばそうとした手を捕られ、両手を纏めて引っ張られる。
「悪いコだ…。」
そういって彼は私の腕を縛り上げた。
赤いネクタイが私の両手を彩る。ゾクゾクしたものが背中を走り、私の奥に蜜を生みだす。
「前に手をついて。」
言われるままに手をつく。縛られているので、正確には肘をついた。
背後に彼の気配を感じながら、次々と与えられる指示に従う。
そう、私は従順な雌犬。
もっと腰を高く。
背中をしならせて。
膝を開いて、もっと。
あられもない姿で、私の隠されたところが暴かれていく。
全て彼の眼下に晒されていく。
羞恥心に、また奥から蜜が溢れ滴っていく。
「まる見えだな。」
くすっと笑いを含んだ声が降ってくる。少し嘲る色が見えるのは気のせいじゃないのかもしれない。
反発も反論もできない。
嘲られて、ただ溢れさせる。
悪いコに前戯はいらないな。そんな声と宛てがわれる感触に、身構えようとした。次の瞬間。
一気に貫かれた。
息を詰まらせ、悲鳴のような嬌声をあげる。
非難したつもりだったのに、出てきた声は非難でなく喜びに彩られていた。
握り締めた手は血の気を失っていく。内側に爪が刺さる痛みすらぼんやりとしかわからない。
「くっ…キツ…。」
背後から呻き声が聞こえる。
内臓を圧迫するかのように力強く押し入られる。息は詰まっては嬌声を吐き出し、吸う暇を与えられない。
衝撃の度にきつく手を握り締める。くいこむ爪のもたらすぼんやりとした痛みは、じわじわと染み渡る快感へと変わっていく。
内壁を通しているのに、ダイレクトに背骨を擦り上げられる感覚。脊髄を快感が駆け上がる。脳に達すれば、他の感覚が鈍っていく。
気持ちイイ事しかわからない。
霞む視界にぼんやりと赤いネクタイが映っていた。
迫りくる波に髪を振り乱して抗おうとする。
そんな私を見ているのかいないのか、彼の動きが変わる。ゆるゆると引いていったかと思うと、また一気に押し入られる。腰を掴み、えぐるように深く貫かれ、私の呼吸は一瞬止まった。
背骨が軋む程背を反らせ、内部を急激に収縮させる。全身の振動が悲鳴にまで伝わった。
しかし休む間など与えられない。
腰を強く掴まれ、彼が波を耐えたことに気付かされる。
「勝手に先にイったな。悪いコだ。」
少し余裕のない掠れた声が、最後通牒にも甘言にも聞こえた。
まだ息も絶え絶えな私を気遣うわけもなく、むしろ好都合とばかりに荒々しく攻め立てる。
零れる涙も唾液もそのままに。崩れた上半身はさらに畳み掛けるように。悲鳴のような嬌声をあげさせて。彼のサディスティックな欲望が満たされていく。
思考回路で唯一作動中の快感のメーターは、とっくに振り切っていた。御しきれない洪水のような快感が、出口を求め荒れ狂う。身体の奥から食い破られそうな危機すら感じられる。それを嬉々として受け入れているのも事実。
浅ましい私。
泣き叫んで、許しを請うことでさらに昂る。屈することで快感を貪る。
被虐の喜び。
力強く最奥を突かれ、すばやい引きに空を締め上げる。
背中に熱が降り注ぐ初めての感触。
ぼんやりと頭を過ぎったのは、髪に飛んでたら嫌だなとかいう微妙な感想。もしかしたらその前に「終わった」とかいう行為終了の呟きがあったかもしれない。どちらにせよ感慨ゼロね…。
快感に溺れながら行為に対してどこか冷めてる。身体を交わしながら、心は離れた所にあるから。
不毛だと気付いてる。本当に欲しいものは手に入らないことも。気付いてるけど気付かないふりをして、騙せない自分を騙して。気付いてないふりをするために快感にのめり込む。
あぁ、私って悪いコ。
(終)
≪あとがき…という名の叫び≫
えぇ、予告より素敵に大幅に遅れ?え、いつも通り?まぁまぁ。
そんなこんなでようやくお送りしました。第二弾『悪いコ』です。相変らずこの二人名前すら出てきてませんねぇ…いっそのこと公募でもして強制的に決めてしまった方が良いのかしらん?でも名前の要らないってのもある意味面白いかなってことで(笑)
ハッピーエンドではないので読んでて幸せになれる読み物でもないですが、楽しんでいただければ幸い。ま、エロを目指したということにしとけばオッケー?
蝉の声が聞こえ始める頃 響万音 参る。 20060717
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